スズメバチ用の防護服が、なぜほとんど白やそれに近い明るい色で作られているかご存知でしょうか。これは単なるデザイン上の理由ではなく、蜂の習性を利用した極めて重要な安全対策なのです。スズメバチを含む多くの蜂は、黒や濃い色に対して強い攻撃性を示す習性があります。これは、彼らの天敵である熊やアナグマなどの体毛が黒いことに由来すると言われています。蜂は本能的に、黒くて動くものを敵と認識し、優先的に攻撃する傾向があるのです。そのため、黒や紺などの暗い色の服装で巣に近づくことは、自ら蜂を刺激し、攻撃を誘発する行為に他なりません。髪の毛が黒い人間は、頭部を特に狙われやすいと言われるのもこのためです。一方で、白や黄色、シルバーといった明るい色は、蜂にとって認識しにくい色とされています。これらの色の防護服を着用することで、蜂からの攻撃対象になるリスクを少しでも低減させることができます。もちろん、防護服の色が白だからといって絶対に攻撃されないわけではありません。巣に近づきすぎたり、大きな音や振動で刺激したりすれば、何色であろうと攻撃の対象となります。しかし、色の選択は、余計な刺激を蜂に与えないための基本的な配慮であり、安全マニュアルの初歩とも言える知識です。もし、防護服が意味ないという場面があるとすれば、それは蜂を過度に刺激するような行動を取った場合でしょう。防護服の性能だけに頼るのではなく、蜂の習性を理解し、彼らを刺激しない色を選ぶという知識も併せ持つこと。物理的な防御と、生態学的な知識の両面から対策を講じることが、スズメバチと対峙する上での鉄則なのです。