私がガーデニングを始めたばかりの頃一番の悩みは虫でした。特に春になると庭に現れる巨大で真っ黒な蜂には心底怯えていました。「ブーン」という重低音が響くと私は反射的に家の中に逃げ込み窓越しにその様子を伺っていました。黒くて大きくて黄色い胸毛が生えているその姿はどう見ても凶悪で刺されたらひとたまりもないと思っていました。近所の人に相談すると「あれはクマバチだよ、危ないから気をつけな」と言われ恐怖は増すばかり。私はネットで最強の殺虫剤を探し庭に出る時は完全防備で臨むようになりました。しかしある日転機が訪れました。いつものように怯えながら花の手入れをしているとあろうことかその黒い蜂が私の目の前数センチのところでピタリと止まりホバリングを始めたのです。私は恐怖で凍りつき悲鳴すら出ませんでした。しかし彼は数秒間私をじっと見つめた後ふいっと向きを変えて藤の花の方へ飛んでいきました。攻撃されなかったことに安堵しつつ後で調べてみるとそれがオスのクマバチの習性であることを知りました。彼には針がなくただ私がメスかどうかを確認しに来ただけだったのです。その事実を知った瞬間肩の力が抜けました。「なんだ、ナンパしに来ただけか」と思うと急に彼が愛らしく思えてきました。それからというもの私は彼を「クマちゃん」と呼び観察するようになりました。彼が一生懸命に短い足で花にしがみつき重そうな体を震わせて蜜を集める姿や他のオスと空中で追いかけっこをする姿は見ていて飽きません。スズメバチが来るとさっと逃げる臆病なところも親近感が湧きました。今ではクマバチの羽音が聞こえると「今年も春が来たな」と嬉しくなります。無知は恐怖を生みますが正しい知識は理解と共存を生みます。もし庭で黒い蜂に怯えている人がいたら教えてあげたいです。彼らは見た目ほど怖くないしむしろ庭を豊かにしてくれる愉快な隣人なのだと。私の庭は今では彼らのためのレストランとなり黒い爆撃機たちは平和な羽音を奏で続けています。