防護服を着ても蜂に刺される恐怖の瞬間
    
    あれは夏の終わりの蒸し暑い日のことでした。私は家の裏手にある物置の軒下に、バスケットボールほどの大きさのスズメバチの巣があるのを見つけました。専門業者に依頼するのが最善だと頭では分かっていながらも、費用を惜しむ気持ちと、インターネットで購入したばかりの防護服を試したいという安易な好奇心が勝ってしまいました。完全防備だと信じ込み、私は一人で駆除作業を開始したのです。分厚い生地に覆われ、視界の狭いヘルメットを被ると、自分の呼吸音だけが大きく聞こえました。巣に殺虫剤を噴射した瞬間、地獄の釜の蓋が開いたかのような光景が広がりました。何百というスズメバチが羽音を轟かせながら一斉に飛び出し、私に向かってきたのです。防護服のヘルメットに、硬いものがぶつかる音が何度も響きます。その衝撃と音だけでも、心臓が縮み上がる思いでした。大丈夫、この服なら安全なはずだ。そう自分に言い聞かせていた矢先、左腕にチクリと鋭い痛みを感じました。一瞬何が起きたか分かりませんでしたが、それは間違いなく蜂に刺された痛みでした。パニックに陥った私は、作業を中断して必死にその場から逃げ出しました。後で確認すると、防護服の袖口のマジックテープが甘く、わずかな隙間ができていたのです。そこから一匹の蜂が侵入したのでした。この経験を通じて、私は防護服の性能を過信することの恐ろしさを痛感しました。どんなに高性能な装備でも、着る人間の油断や知識不足があれば、それは意味をなさないのです。たった一匹の侵入が、命取りになりかねないという事実を、身をもって知った出来事でした。